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高松地方裁判所 昭和32年(わ)174号 判決

被告人 谷朋助

主文

被告人を罰金三万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金三百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自己所有の大川郡大川村富田東奥谷三三九番地ないし三四三番地の田五筆合計一反一畝二二歩を、終戦前から農業上野紋七に賃貸していたが、昭和二四年一〇月ごろ、右農地につきあらためて同人と終期を昭和三四年六月二二日とする賃貸借契約を結び、爾来右農地を同人に耕作させていたのであるが、被告人は、右農地を取戻して自作しようと決意し、香川県知事の許可を受けないで昭和三二年四月上旬ごろ、右農地附近において、上野紋七の長男賢一を通じ紋七に対して、「右土地は今年の稲作から自分が耕作するのでそれ迄に明け渡してくれ」と申し向けたうえ、同年六月七日家族等七名とともに、右農地のうち三四一番地の土地を除く四筆の田合計八畝二三歩に立ち入り耕耘し、即日稲苗を植え付け、もつて右農地の賃貸借を解除したものである。

(証拠の標目)

判示事実中本件農地の賃貸借の成立に関する事実につき

一、被告人の検察官に対する供述調書中被告人の供述として

私は本件農地五筆を戦前から上野紋七に対して小作料反当米一石二斗で期限を定めず小作させていた。戦後に村農地委員会から小作の取決を書付でするように勧められ昭和二四年一〇月同人と右農地に関する賃貸借契約書を作成した。戦後小作料は金納に改められ僅かな額なので小作させるのは好まなかつたが時勢で仕方がないとあきらめていたので右契約書作成後昭和三一年まで紋七に対して右農地を返してくれと請求したことはなかつた、旨の記載

一、第六回公判調書中証人谷勇の供述として

私は被告人の二男で父と農業に従事している。本件農地は父が昭和一二年ごろから上野紋七に貸して耕作させている。昭和二四年に同人との右農地に関する賃貸借契約書に自分が父に代つて父の印を押した。それ以後昭和三一年まで私が紋七に対して右農地を返してくれと申し入れたことはなく、父がそういつたことは知らないし聞いてもいない。紋七は以前から小作料の支払を滞つたことはない。右契約書に捺印した後も被告人は毎年紋七から定められた小作料を受領してきた、旨の記載

一、証人上野紋七の尋問調書中同証人の供述として

私は、本件農地五筆を戦前かなり古くから被告人より賃借小作している。戦後年月日は忘れたが被告人と本件農地に関する賃貸借契約書を作成した。私は家事一切を長男賢一に委していたのでその手続は同人にさせた。その後も小作料は引き続き毎年被告人に支払つている。昭和三二年四月まで被告人から右農地の返還を求められたことはない、旨の記載

一、第四回公判調書中証人上野賢一の供述として

私は上野紋七の長男で父と農業に従事している。本件農地は戦前から父が被告人より賃借し小作している。昭和二四年一〇月に農地委員会の勧めで、右農地に関し父に代つて被告人と終期を昭和三四年六月二二日とする賃貸借契約書を作成した。小作料は戦前は米一石二斗であつたが昭和二一・二年ごろ金納となり右契約書作成当時は七一四円であつたがその後一五〇〇円位になつた。右契約書作成後、小作料の支払を滞つたことはなく、被告人も毎年快く小作料を受け取つていたし、昭和三二年春ごろまでの間被告人から右農地の返還を要求されたことは一度もなかつた、旨の記載

一、大川郡松尾地区農業委員会々長から長尾警察署長に対する「農地法第二十条に関する関係書類の送付について」と題する書面中農地賃貸借契約書の謄本

判示事実中賃貸解除に関する事実につき

一、被告人の当公廷における供述

一、被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書

一、第四回公判調書中証人上野賢一の供述記載

一、証人多田栄、同上野紋七各尋問調書

一、第五回公判調書中証人大山正雄の供述記載

一、第六回公判調書中証人谷勇の供述記載

一、農業委員会書記津田勇の高松地方検察庁に対する「谷朋助氏の農地法第二十条第一項の規定による許可申請に対する香川県知事の不許可処分について」と題する書面

一、大川郡松尾地区農業委員会々長の長尾警察署長に対する「農地法第二十条に関する関係書類の送付について」と題する書面中農地法第二十条第一項の規定による許可申請書謄本

なお判示事実全般につき

一、当裁判所の検証調書

一、司法警察員及び検察官作成の各実況見分調書

(法令の適用)

農地法第九二条、罰金等臨時措置法第二条、農地法第二〇条第一項、刑法第一八条、刑事訴訟法第一八一条第一項。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 横江文幹 首藤武兵 太田浩)

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